ハラスメントの種類

近年、さまざまなハラスメントに関する造語が生み出されています。

昔から言われているセクシャルハラスメント(セクハラ)などはとうの昔に市民権を得ています
職場などで無視をするなど精神的な嫌がらせを続ければモラルハラスメント(モラハラ)
お酒の場で飲酒を強要すればアルコールハラスメント(アルハラ)
それぞれの性の「らしさ」を強制すればジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
理不尽な消費者が自己中心的な要求を店員に付きつければカスタマーハラスメント(カスハラ)など

世間では○○ハラスメントという言葉にあふれています。それだけ、世の中には理不尽な嫌がらせを行う人々が多いということなのでしょう。

そして、その中でも社会人が最も身近に体験する可能性の高いものが、権限を持つ上役が意図的に部下に対して嫌がらせを行うパワーハラスメント(パワハラ)です。これが大学などの教育機関において、教授が学生に行うとアカデミックハラスメント(アカハラ)と呼ばれますが、地位的な優位性を悪用して、被害を受けた側が身体的にも精神的にも苦痛と感じる嫌がらせを与えるという図式は同じです。

このハラスメントの本質は、地位が上の者が強い権限を背景に嫌がらせを行うことで、被害を受けた人が抗いにくいという側面があるということです。

パワハラの構図

会社の中には、もちろん業務を円滑に行い、責任の所在を明確にするためにも、指揮命令系統が存在しています。もし従業員が上司の適切な指導に従わず、課されている業務を果たそうとしなければ、命令違反で処罰を受けるでしょう。組織として動いている以上は、各々が勝手なことをしていれば、会社が掲げる目標達成が難しくなりますので、命令が機能するように制度があることは当然のことです。

しかし、もし社内で地位の高い上司がその権限を部下に向かって理不尽に振り回せば、また別な弊害が起こります。筋の通っている指導や叱責ではなく、単なる個人的な好き嫌いによる嫌がらせであったり、何かをきっかけにその上司が不利益を被った出来事への個人的な報復であったり、自分のその日の気分を理不尽にぶつけているだけといった、到底受け入れがたい理由での嫌がらせは、パワハラ以外の何者でもありません。

そして、得てして起こりがちなのが、パワハラの被害を受けた部下の、精神的なダメージの蓄積による鬱病の発症や、最悪の場合は自殺にまでいたる労働災害です。ここでパワハラの定義を改めて確認してみると、その組織における地位や立場の優位性を利用していること、通常の業務の範囲を逸脱した部分でも精神的もしくは身体的な苦痛を与えていること、嫌がらせの結果として、被害を受けた従業員がその職場環境では本来の力を発揮できない状態に陥っていることが要件となります。

つまり、パワハラとして認定されるためには、上司としての立場を意図的に利用して一方的に嫌がらせをしていたか、担当業務に関する理不尽な命令や叱責に加え、業務とは関係のない単なる人格否定の個人攻撃をしていたか、被害者に暴言を吐いたり脅したり、身体的な攻撃を加えることで職場で安心して働ける環境を奪っていたかなどを立証する必要が生じるということです。

パワハラの被害を訴えるには

もしあなたがパワハラ被害を受けて、鬱病を発症するなどのダメージを負い、仕事がやりづらくなった、もしくは勤務すること自体が難しくなり、休職しているなどの状態に陥って、その原因が明らかに上司からのパワハラによるものであると立証する材料がある場合は、その上司を訴えることは可能です。

とはいっても、一般的には上司を訴えるとなると、その監督責任のある会社も一緒に訴えることが多いため、もし退職や転職を考えておらず、まだ会社に残りたいという希望がある場合には、訴訟を起こす前に会社に相談したほうがよいでしょう。人事部に相談してもいいでしょうし、パワハラ被害を受けた上司よりも上役の上司を知っているなら頼ることも可能でしょう。

または労働組合に相談し、一緒に会社とかけあってもらってもいいかもしれません。自分が会社に残りたい意思を伝え、会社に迷惑をかける意図が全くないこと、該当するパワハラ上司を訴える過程において会社も訴えざるを得なくなる可能性について、事前に報告をしておくべきです。もしかしたら、その時点でパワハラ上司への処罰や指導が行われ、示談のような形に落ち着くかもしれません。

しかし、万が一会社が相談に行った社員が悪いと決めつけたり、上司をかばうような対応を見せたり、全く取り合ってももらえなければ、もう会社に残ることは諦めて退職ありきの覚悟を持って、会社も上司も訴える方向で粛々と進めるしかないでしょう。

そうした事前に筋を通してからは、弁護士を雇って確実に訴えが認められるように段階を踏んで準備を行います。一般的にパワハラ被害の訴えで勝訴した場合に得られる慰謝料の額は、50〜100万円の間が相場であるとされています。あくまで目安ではありますが、できる限り多くの慰謝料を受け取れることを目的とする必要があります。

訴訟を起こすための手数料と弁護士費用がかかりますので、こうした費用のことも踏まえて請求額を決める必要性も生じます。裁判に勝訴すれば手数料はパワハラをした上司側が負担することになりますが、50〜100万円が相場と言われる弁護士費用は、全額依頼者負担です。

そこで、実際に自分が受けた精神的な被害の大きさや社会的な不利益をどれだけ受けたかなどを鑑み、100万円以上の慰謝料を請求できるかどうかを見極めないと、慰謝料よりも弁護士費用の方が高額になる費用倒れの状態になってしまうため、注意が必要です。こうした慰謝料と費用の計算を事前に行うことも早い段階で必要になります。

いったん上司を訴える決意を固めたら、次はパワハラの被害に遭っていた証拠を集めます。証拠がないとそもそも裁判で被害を立証できませんので、多ければ多いほど勝てる確率が上がると思って、さまざまな証拠を集めましょう。まずはボイスレコーダーによる録音です。経験則上において、パワハラを受けそうな場面があれば、早い段階からスマートフォンやICレコーダーなどをオンにしておきましょう。

また、文章として残っているものも証拠となります。業務上で受け取ったメールの内容に暴言や脅迫と受け取れる文言があれば、そのメールも証拠として機能します。読み返すのもつらいかもしれませんが、慰謝料を勝ち取るためにも消去せずに保存しておきましょう。他に証拠となり得るのが、鬱病などを証明するための医師の診断書です。

第三者の信頼できる医師の診断書を裁判所に提出することで、客観的に鬱病が認められていることを証明できるので、被害の大きさを訴求できます。もし、会社の中で理不尽な異動を伴うパワハラ被害を受けた場合には、その辞令なども証拠として提出が可能です。会社が守ってくれなかった証拠の一つになるでしょう。あとは詳細な日時をともなったメモ書きも証拠として認められます。いつ、具体的に何を言われたかを、その都度、書き留めておきましょう。

証拠がそろったら弁護士を雇い、まずは代理として会社との交渉を依頼します。この時点で和解できなければ、次は訴状を裁判所に提出し、民事裁判となります。訴える規模によっては長期戦となる場合もありますが、もうその会社にとどまることが難しいと判断したら、すぐに転職エージェントのサポートなどを受けながら転職活動を行い、心機一転を図りましょう。